2012年3月7日水曜日

Sula

Sula by Toni Morrison (1973)


今まで読んだものの中で、最も衝撃的で美しい小説だった。

私達が生きていく、その壮大な物語は、必ずしもいつもハッピーエンドであったりすべてが簡潔では決してない。
人間というのは、感情を堀りさげるほどに、自らのうちに鬱蒼と森のようにいかにも自然な形で存在している狂気の濃淡を、苦く、甘く、味わうことになるだろう。

その、甘さと苦さ、という味覚のジレンマ、それがもたらす恍惚感のようなものを、読んだ気がした。
物語自体を客観的に表現すると、とても苦いのだ。
だけれども、そこに絶対的に甘さが存在しているのは、時間の密度、愛情の密度、人間性の密度、感覚の密度、
それらすべてが飽和するほどに濃いからなのだと思う。

スラという主人公は、所謂現代的な魔女として描かれている。
世間の常識を畏れない女。
子供の持つ恐ろしさ、純粋さ、を同時にもてあまして大人になった女。
自分としては大した意図のない行動が、なぜかいつも劇的な結末をもたらしてしまう女。

彼女の哀しみを思った。
ひとり、意図せずして、ベッドで孤独の死を呑み込んだひとつの魂を。
彼女の死を喜び安堵した、村の者達の安易で悪意のない排他的精神を。

それでも、スラは甘く苦く、色彩のあくまでも濃い人生を送ったことを。

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