そこはかとなく親密でいて、よそよそしいのだ。
初夏というのは。
やんわりと湿気を帯びた空気が、肌に張りつき、子供達の叫び声や車のクラクションはこだまのように聞こえる。
まるで体が繭に包まれているような感覚。
自分はそこにいるけれど、他の人からはもしかすると見えていないんじゃないかという疎外感。
空気の密度の濃さは着実に現実の正体という幻想のベールを私達にかぶせていく。
タイムトリップが一年のある時期にだけ可能だとしたら、それはきっとこんな初夏の夕暮れだろうと思う。
そんな初夏の夕暮れに、まだ赤く染まりだしたばかりの空に灰色の雲が立ちこめ、
雷の唸り声が聞こえだした頃に降り出す夕立ち。
雨は勢いをまし、雷の唸りもそれに呼応して頻度を増す。
親密さとよそよそしさによって育てられた、初夏の気怠さが、
突然の夕立ちと雷鳴によりドラマチックに 覚醒を強いられる。
夕立ちは、人間のこころにいくらかの切迫した真剣さをもたらし、
強く降りしきる雨は私達に心を鎮める時間を与える。
そしてもし落雷があれば、
私達は必然的に観念としての 扉 の前に立たされる。
どこかへつづく、入り口、というものである。
そして畏怖を知る。