音楽家による音楽家へのインタビュー。
副題にそう記されているのは、Notes and Tonesという、ドラマーのアーサー・テイラーによる多数のジャズ・ミュージシャンへのインタビューからなる本だ。
この本で紹介されているインタビューは60年代の終わりから70年代の初めにかけて行われた。
テイラーは、様々なミュージシャンに対していくつかの同じ質問を投げかける手法をとっているのだが、その中のひとつで私が最も興味を引かれたものがあった。
What do you think about freedom music?
「フリーダム・ミュージックについてどう思うか?」という質問である。
現在はフリー・ジャズと一般的に呼ばれているものを、彼らはフリーダム・ミュージックと呼ぶこともあったようだ。
オーネット・コールマンのThe Shape of Jazz to Comeが1959年に発表されてから、60年代初めにはセシル・テイラー、アルバート・アイラーやアート・アンサンブル・オブ・シカゴなどがいわゆるフリージャズを代表する作品群を次々に発表していった。
そんな時代背景の中で、「フリーダム・ミュージック」を痛烈に批判するミュージシャンも少なからず居た、ということを、私はこの本を読みながら初めて実感した。
そこで、自分自身の音楽に対するより深い理解のためにも、この質問の部分だけを切り取って、ミュージシャンごとの回答を訳し、紹介していきたいと思う。
第一回はランディ・ウェストン。
彼は「フリーダム・ミュージック」をどう思っていただろうか。
まず初めにこの種の音楽に対して私が感じることですが、白人のライター達によってそのイメージが形作られているということです。フリーダム・ミュージックの功績というのはいくつかあります。
ファイブ・スポットでの出来事ですが、私の真向かいで、その夜オーネット・コールマンが演奏していました。
すると、客席に座っていたレオナード・バーンスタインが突然飛び出してきてこう言ったのです。
これこそがジャズの歴史における最高の場面であり、バードなんかは居なかったに等しいと。
まあこのような場面に代表される色々なことです。
私は、音楽を分析したりということは理解できません。
そういうのって、結構荒々しいことだと思いませんか?
初めにオーネットを聞いた時、私は良いと思えなかったのですが、今では彼の音楽が本当に好きです。
まず初めに、この音楽は今現在何が起きているかということを如実に反映しています。
ただ、私にとっては、 このフリーダム・ミュージックと俗に言われる音楽が、他の音楽よりも自由であるとは特に思えないのです。
モンクは一音を弾くだけで、信じられないほどの自由をそこに創造することができました。
自由を創造するためには、そんなに沢山の音は必要ないのです。
ひとつの音だけで曲が作れることもあるのです。
私の考えはこれだけです。
ここ数年の間で、音楽を通して、または音楽以外の別の場所で反抗の意思表明をしてきたミュージシャン達を沢山見てきました。
平たく言えば、この「フリーダム」という概念は新しいものでも何もないのです。
ジェリー・ロール・モートンを聞いたとき私はひっくりかえるような思いをしたし、
ファッツ・ウォーラーが弾くものなんて、その辺のアヴァン・ギャルドの奴らが弾いてるものかそれ以上に「自由」です。
「フリーダム」というのは自然な発展のかたちです。(ジャズ史において、という意味だと捉える)
そこから何が始まるのかはわかりませんが、これからもっと多くのアフリカ音楽の影響も我々の音楽に反映されていくでしょう。
もうそれ(アフリカ音楽のジャズへの影響)は起こっていますが、アヴァンギャルドほどに広告宣伝がなされていないだけのことです。
私が聞いたアヴァンギャルドの多くは、初期のヨーロッパの現代音楽の様でした。
聞いた感じこの種の音楽を好きだと思えないので、それらの音楽家の名前をあげられる程の知識は今のところないですね。
追記:
ランディ・ウェストンはブルックリン生まれのアメリカ人で、丁度この頃(インタビューは1968年と1970年の二回にわたって行われた)にアフリカ・ツアーを果たしている。
彼は1954年に初のリーダー作を発表し、ミュージシャンとしての活動を本格的に始めて割とすぐにアフリカへの興味を持ったのかもしれない。
ウェストンの音楽遍歴の中で、最初に明確なアフリカというテーマを主張したのは、Uhuru Africa (Roulette, 1960)だと思われる。「アフリカの自由」と題されたこのアルバムをターニング・ポイントに、ウェストンはアフリカというテーマをジャズを通して表現するというライフワークに足を踏み入れたのではないだろうか。
そんなことも考えると、アフリカをテーマにしたジャズというものが、「フリーダム・ミュージック」ほどに陽の目を浴びていないことをウェストンがもどかしく感じていた様子が伺える。
私の個人的な観点からすると、ランディ・ウェストンのピアノにはかなりアヴァン・ギャルドな要素が入っているように感じていたので、彼自身が、(少なくとも60年代〜70年代当時は)「フリーダム・ミュージック」に対してそれほど興味を持っていなかったということに少し驚いた。
出典:Notes and Tones Musician-to-Musician Interviews, Expanded Edition by Arthur Taylor
(蓮見令麻訳)
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