マンハッタンに数少なく残る、アンダーグラウンドな雰囲気のクラブ、コーネリア・ストリート・カフェ。
天井の低い地下のスペースに窮屈にテーブルと椅子が並べられて、青い壁とステージの赤いカーテンが照明に照らされる。
変に気取っていない、オールド・スクールな場所だ。
この場所は、ジャズだけでなくクラシックやポエトリー・リーディングなど幅広いパフォーマンスをホストしている。ジャズに関していうと、フリーっぽいものや、実験的要素の強いコンテンポラリーなミュージシャン達が沢山演奏している場所だ。
あとはブルックリン派と呼ばれる様なミュージシャン達がマンハッタンで演奏する足場になっている様なイメージもある。
新しいスタイルやインプロビゼーションなどに対してかなり積極的でオープンなクラブだ。
今晩はここで、トニー・マラビー率いるクインテットを見てきた。
ビリー・ミンツ(drums)、アイヴァンド・オプスヴィック(bass)、ダン・ペック(tuba)、クリストファー・ホフマン(cello)をバックに、トニー・マラビーがブロウするという、とても魅力的なプロジェクトだ。
チューバとチェロが入っていることで、通常の予測されるジャズ・クインテットのイメージの枠は容易に破壊される。
ふたつの強力な弦楽器の音は、アンサンブル全体の音に厚みを持たせ、
少しくぐもった様なチューバの音は、不思議な存在感を持って全体音の周りを浮遊する。
ビリー・ミンツの出すドラムの音が、その浮遊感を補足しつつ、音楽の舟から錨をするすると下ろしていく。
インプロビゼーションを演奏するビリーのドラミングには、ほとんどの場合、明確なビートは刻まれない。
明確なビートを主張してこない、究極的ミニマリズム。それは、逆に言うと、音楽的に素晴らしく柔軟である、ということで、音響を主体とする演奏には特に、最高のキャンバスを用意してくれる。
彼の表現は、テクスチュアを中心にしたもので、とにかく繊細で綺麗な音をドラムから出す。
トニー・マラビーの演奏は期待していた通り素晴らしかった。
彼ほどひとつの楽器から変幻自在にあらゆる音を出す奏者を私はあまり見たことがない。
そして、どの音も、絶妙な加減でコントロールされている。
グループ全体でインプロビゼーションを演奏した時には、その細やかな音の粒、ざらざらした感じと大きな一体感が、レヴォリューショナリー・アンサンブルの様だった。
かと思うと、楽譜を取り出して弾いた曲では、基本に流れるメロディーのヘテロフォニックな感じと、
その周りを流れる少し、ほんの少しだけ狂った感じの音の層に、エリントン・オーケストラの残響が聞こえた。
このグループの演奏は是非もう一度聞いてみたいと思う。
是非アルバムも作って欲しい。
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