ヴィジョン・フェスティバルで感銘を受けたマシュー・シップのトリオ。
リリースされたトリオのアルバムや、マシュー・シップの歩いてきた音楽シーンについての、
Jazz Right Nowのシスコ・ブラドリーによる、ピアニスト、マシュー・シップのインタビュー。
(2014年3月)
ブラドリー:
マイケル・ビシオとウィット・ディッキーとの共演でリリースしたアルバム、Root of Things(Relative Pitch, 2014)は何か新しい方向性というもの示しましたか?
シップ:
新しい方向性というのが正しい表現かはわからない。もしかしたら、もっと強烈な形での融合というのが合った見方かもしれない。
私は確実に、以前よりももっと「ジャズ」のサウンドに足を踏み込んでいる。
このトリオは、伝統的なピアノ・トリオのような、馴染みやすい種類の音の世界への見せかけの橋渡しをしているが、音楽的方向性そのものは、音と律動の連続体だ。
それは、より深く、違った角度から、ただの「方向の変化」以上のものを導き出すということ。
今回書きだしたいくつかの素材のフォーカスは、私が今まで書いた曲のテーマとは少しエネルギーも方針も違う。
ブラドリー:
ウィット・ディッキー、そしてマイケル・ビシオと、ここ何年か一緒に仕事をしてきたのはどのような経験でしたか?
シップ:
ウィット・ディッキーのことは80年代の終わり頃から知っていて、それ以来ずっと親しい仲なので、その間の細かい課程とかそういうことは覚えていない。家族の様な感じだから。
彼は私の演奏スタイルにとってパーフェクトなドラマーだ。
マイケル・ビシオと私は何年もの間知り合いで、実際に一緒に演奏するまでに何度も共演の話はしていた。共に演奏した最初の一音を聞いた瞬間に、互いに家族の様に感じた。
ふたりとも、とても親しい間柄だ。
ブラドリー:
80年代頃から今まで、ウィリアム・パーカーやデイヴィッド・S・ウェアなどとの共演でシーンの潮流を起こしてきましたが、その当時のニューヨークのシーンや雰囲気について話してもらえますか?
シップ:
80年代の初めの頃は、ダウンタウンのアヴァンギャルド・シーンでは、いわゆる黒人派と白人派が分離されていた。ニッティングファクトリーで白人も黒人も皆が演奏するようになって、ダウンタウンのアヴァン・シーンというアイディアがより一体となった感じがする。それまでは、ウィリアム・パーカー派とジョン・ゾーン派という風に分かれていたし、それ以外にもアップタウンのウィントン・マーセリスを筆頭とする伝統派とダウンタウン派の黒人と白人両方の間の分離もあった。
こういった種類の分離は未だ存在している。
ダウンタウンの黒人派は、80年代初め、3つの出来事が起こるまで、全く注目されなかった。
ひとつめに、スウェーデンのシルクハート・レコードが来て、チャールズ・ゲイルやデイヴィッド・ウェア、Other Dimetions in Music、私自身や他のミュージシャン達を録音し始めた。
ふたつめは、オルタナティブやパンク・ロックのレーベルが、フリージャズを録音しはじめ、さらにオルタナティブ、パンク・ロックのミュージシャン、サーストン・ムーアやヘンリー・ロリンスがダウンタウン派のミュージシャンを起用して録音したこと。
最後に、ヴィジョン・フェスティバルが立ち上がり、成長していったことで、この種類の音楽への国際的評価が得られたこと。
この3つの出来事のおかげで、デイヴィッド・ウェア、ウィリアム・パーカー、私自身、ウィリアム・フーカー、ロイ・キャンベルなどは色々な事をできるようになった。
もちろん、ウィリアム・パーカーの成功はものすごい仕事への熱意と数えきれないほどのプロジェクトへの専心によって得られたものだ。
デイヴィッド・ウェアは一匹狼で、ダウンタウンの黒人ミュージシャンの傘下にはいなかった。
だけど、やはりこの一連の動きからの恩恵は受けていると思う。
ブラドリー:
クリエイティブな音楽をやっているミュージシャンにとっては、ニッティングファクトリーの時代とダイナミックなシーンを懐かしむことは珍しいことではないと思いますが、どうしたらそのようなダイナミックなシーンを再築することができると思いますか?それとも違った方向へと押し進めるのが良いのでしょうか?
シップ:
新しい方向へ進んで、何か違ったことを始動させる方がいいだろうね。
ニッティングファクトリーはとにかく中心的な場所そしてイメージになったし、あるレベルではその場所と音楽における継続性を創ったけれど、アーティストそれぞれがそこから抜け出す方法も創りださなければいけない。
ブラドリー:
この5年間で、ニューヨークのクリエイティブな音楽シーンは良くなったと思いますか、悪くなったと思いますか?
シップ:
私は自分自身のプロジェクトにフォーカスしているし、生き残っていくためにはいろいろとやることがあるので、シーン全体のことを知ることは難しいし、この質問は答えにくい。
私は50代半ばなので、20代や30代の時の様に外を遊び歩くことはないんだ。家にいるのが好きだし。ブルックリンに沢山クラブがあるのは知っているけど、ほとんどは行ったこともない。
色々な音楽的活動もあるようだけれど、よくは知らない。
私が思うに、社会全体がとても嫌な場所になってきているし、文化全般が浅はかなものに成り下がっている今、この種類の音楽は、ミュージシャン達が稼げていてもいなくても、継続していかなければならないものだ。ひどい社会文化の状態とバランスを取るためにね。
たとえ天気が悪かったとしても、ーいつも悪いものだけどー 一番重要なことは、人々がそれぞれの活動を活動するということだ。
こういった動き全体にはもしかしたら宇宙意志なんてものが働いていて、
私達がお金を稼げるかどうか、またはダウンビート誌に評価されるかどうかというのは、
宇宙意志の計画にとっては重要ではないのかもしれない。
質問に答えるとしたら、もちろん、今のこの音楽シーンの状態は悪いよ。
文化そのものがバランスを欠き、フェイクなものになっている中で、このシーンだけが良い状態でいれることなんて無理だろう。けれど、だからといって、そういう状況が、本物のアーティストが活動をしていくことの妨げにはならないはずだ。
ブラドリー:
これからリリースされる予定のもの、グループなどありますか?
シップ: トリオのRoot of Things、イヴォ・パレルマンとの共作がふたつ、ダリウス・ジョーンズとのライブ録音、それからゲストとして参加している、The Core Trio、ドラマーのジェフ・コズグローブのグループ、それからサースティー・イヤーのためのソロ録音もする。
ブラドリー:
ダリウス・ジョーンズとのCDについてもう少し聞かせてもらえますか?
シップ:いくつかのギグでライブ録音したものを厳選したCDが数カ月後にリリースされます。もちろん、AUM Fidelityから。ダリウス・ジョーンズと演奏するのは大好きだ。彼はこの音楽における輝く光のひとつだ。多くのリスナーがまだ聞いたことはないと思うが、彼は音を引き伸ばしたり伸縮させたりすることができるんだ。まるで巣を編む蜘蛛の様にだ。彼の音は、本当にオーガニックな可能性を秘めている。ひとつの言語とも呼べるものだ。
ブラドリー:
もしニューヨークのクリエイティブ音楽シーンでひとつ変えることのできるものがあるとすれば、何でしょう?
シップ:私達がしていることが、他の音楽に比べて「out」(はみ出している、おかしい)と思ってしまう感覚。アーティストが、自身の感じている本物の感情をもとに創造しているのであれば、その創造物は「out」ではなく、ただそれはありのままにそういうものなのだ。
引用:Jazz Right Now
訳:蓮見令麻
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