ベン・ウェブスターの掠れたビブラートを聞く時、私はベンの膝の上に座っている空想をする。
彼のテナーからは、ほとんど完璧に近い父性がむせかえるほどに溢れ出している。
大きな両腕を拡げて私を包み込む深い懐、くゆる煙草のけむり、そういうものが音を伝い、迫ってくる。
ベン・ウェブスターの生涯の中で彼が愛した女性がきっと何人かいただろう。
もしその女性達の中に、ベンが膝に座らせて耳元で掠れた音でバラードを聞かせたひとがいたとしたら、
彼女にとって、それは魂に深く刻まれるほどの強烈な経験であっただろうと思う。
例えば、"Tell Me When"というバラード。聞きこむほどに、本当にぞくぞくする。
そこには、ブルースがあって、物語があって、愛があって、哀しみがある。
生粋のロマンティシズムには、偽物の恥ずかしさは微塵も介在しない。
こういうレコードは、古く静かなジャズ喫茶で聞きたいものだ。
オリーブの入ったジンのマティーニを少しずつ啜りながら、ベン・ウェブスターが流れるのを聞く時には、レコードの薀蓄を語るひとではなくて、ただ、うーん、やっぱり、いいねぇ、、、 と一緒に唸ることのできる類のひとに隣にいてほしい。
"Gerry Mulligan meets Ben Webster"(1959 Verve)
0 件のコメント:
コメントを投稿